TOP #123 相続預金の払戻制度

#123 相続預金の払戻制度

銀行口座の名義人が亡くなった場合、いったん口座は凍結され、遺産分割が必要な場合はその分割協議が終了するまで預金が引き出せなくなります。遺産分割協議がなかなか調わない場合はもちろんですが、協議がスムーズにいく場合でも、銀行での払戻等の手続の際には、被相続人の出生から死亡までの戸籍が必要になるなど事前に揃える資料もたくさんあるので、予想外に時間がかかるものです

銀行口座の名義人が亡くなり、その口座の預金が遺産分割の対象となった場合、口座が凍結され預金が引き出せなくなったときに慌てないためにも、「遺産分割前の払戻制度」について知っておきましょう

 

銀行口座の名義人が亡くなり、銀行口座が凍結されると預金の移動ができなくなります。たとえ家族であっても現金を下ろすことはおろか、クレジットカードや家賃、光熱費などの引落もできません

遺言書によって預金の受取人が決められており、遺言執行者が指定されている場合には、凍結を解除する手続きは比較的簡単に行うことができます

しかし、遺言書がなく遺産分割協議を経るときには相続人全員の同意が必要になるため、以前は被相続人の預貯金を遺産分割前に口座から払戻すことはできませんでした

そこで、銀行口座の凍結によって相続人などが受ける不利益を緩和するため、2019年に『遺産分割前の相続預金の払戻制度』が施行されました。この制度を利用することで、口座が凍結されても、一定金額の範囲で預金の払戻しを受けられるようになったのです

 

遺産分割前の相続預金の払戻制度の手続きには、家庭裁判所に申立てる方法と、家庭裁判所の判断を経ずに銀行から直接払戻しを受ける方法の二種類があります

生活費や葬儀代などの支払いのために必要な場合には、まず被相続人が取り引きしていた金融機関に問い合わせてみるのがよいでしょう

遺言書がある場合など、制度が利用できないときもあるため注意が必要です

また、これらの制度により払戻された預金は、後日の遺産分割で払戻を受けた相続人が取得したものとみなされます

 

同一の銀行から直接払戻が受けられるのは、【相続開始時の預金額×3分の1×当該相続人の法定相続分】または【150万円】のうち、どちらか低い方の金額です。これ以上の金額を払戻したいときには、家庭裁判所に遺産分割の審判または調停の申立てをすることを前提とした預金払戻の申立てが必要になります

それぞれ主な必要書類は、以下の通りです

【銀行から直接払戻しを受けるとき】

●被相続人の、生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍謄本等一式
●相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
●預金の払戻しを希望する人の印鑑証明書

【家庭裁判所に申立てて払戻しを受けるとき】

●家庭裁判所の審判書謄本(審判書上確定表示がない場合は審判確定証明書も必要)
●預金の払戻しを希望する人の印鑑証明書

 

取引している金融機関によって必要な書類が変わることもあるため、事前に金融機関に確認しておくとよいでしょう

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この記事を書いた人

いわみ会計事務所

代表

岩見 文吾

保有資格
税理士・公認会計士・行政書士・ファイナンシャルプランナー(CFP)
専門分野
相続・会計
経歴
いわみ会計事務所の代表を勤める。大手監査法人での勤務を経て、2013年にいわみ会計事務所を開業。会計監査業務のみならず、相続に関しても年間200件近くの相談に対応するベテラン。その他、相続に関する多数のセミナー講師も引き受けている。